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LIVE&EVENT - 2020.05.19

自分たちの手で、幸せの循環をつくる。マルシェを常設する那須のゲストハウス #26 栃木

MotionGalleryとゲストハウス情報マガジンFootPrintsとの共同企画として、47都道府県のゲストハウスを毎月1宿ずつめぐり開催している「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-」。第26回は、2020年3月に栃木県那須塩原市にあるゲストハウス「Chus」に伺いました。

日本各地のゲストハウスを毎月めぐり、地域で面白い活動を企む人たちが垣根を越えて出会える場をつくることで、新たな関係性やプロジェクトの芽を育もうとする企画「 ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-(以下、キャラバン)」。

26カ月目となる今回は、栃木県那須塩原市・黒磯のまちで、MARCHE(直売所)・TABLE(ダイニング)・YADO(ゲストハウス)から構成される拠点「 Chus(チャウス)」を運営するオーナー宮本 吾一さんのもとを訪れました。Chusをはじめた理由や、森を生かした酪農「森林ノ牧場」と共同で企画したお菓子「バターのいとこ」の仕組みなど、宮本さんのお話を中心にキャラバンをレポートします。

※新型コロナウイルスの深刻化を受け、3月を区切りにキャラバンは一時休止しています。一刻も早く安全に事態が収束し、再び皆さまにお会いできる日が訪れますことを心から願っております。

キャラバンの様子をまとめた動画はこちら。

“心理的ローカル”な人々が集う「ローカルクリエイター交流会」第26回 in 栃木

このキャラバンは、MotionGalleryによる「日本各地で誕生しようとしている熱いプロジェクトにエールを送りたい」という思いと、 FootPrintsによる「ゲストハウスを通じて、暮らしの選択肢が広がるきっかけを届けたい」という思いを組み合わせて実施しています。

キャラバン隊として毎月各地をめぐるのは、FootPrintsを運営する前田 有佳利(dari)と、「あなたのまちに、新しい映画体験を」をコンセプトに掲げるマイクロシアターサービス popcornに携わる梅本 智子(moko)。MotionGalleryの専属サポーターでもあるdari&mokoがゲストハウスの方々にご協力いただき、ローカルの人と人との新たな接点をつくるべく「ローカルクリエイター交流会」を開催しています。

今回は、“ローカル”を物理的距離ではなく心理的距離の近さと捉え、参加希望者を公募するのではなく、このイベントで引き合わせたいと思う人々を宮本さんが直接招待してくださる貴重な回となりました。

黒磯駅から徒歩約10分ほどの場所にある、3階建てのビルを改装したChus。

3階にある共用ラウンジで1人ずつ自己紹介をしたのち、1階のTABLEで食事。最後は2階のYADOで宿泊しました。

出発地点は、那須地域の“うんまいもん”をつくる人々のマルシェ

さて、ここから本題である、宮本さんの“活動の原点”に触れていきます。

Chusの1階にあるMARCHEでは、地元の農家さんがこだわって生産した野菜や、全国各地から選りすぐった加工品・雑貨・日本酒などが販売されています。実はChusのはじまりは、このMARCHEにありました。

宮本さん
2012年から年に2回、バックグラウンドの異なる地域の有志20名くらいで集まって「那須朝市」というマルシェイベントをやっていました。最初は軽トラの荷台に野菜を並べただけだったけど、そのうち小学校の跡地を借りられることになって、地元の飲食店の出店も加わっていって。すごくいいイベントになったけど、規模が大きくなるにつれて疲労感と違和感を感じるようになったんです。

那須朝市のコンセプトは「那須の大きな食卓」。酪農や野菜づくりが盛んな那須地域の“うんまいもの”をつくる人々が一斉に集い交流できる機会をつくりたい、との思いから手弁当でスタートした企画でした。しかし、来客数が5000人にのぼる頃には、駐車場の確保や警備員の手配といった諸業務や諸経費がかさみ、当初の思いだけで運営することが難しくなっていました。

小学校跡地で実施された那須朝市の様子。朝7時から13時までの2日間、年に2回開催されました(写真提供:那須朝市)

宮本さん
そんな時、那須朝市で野菜をいっぱい買ってくれたおばちゃんが「すごくいいから、これ毎週やんなさいよ。毎週買うから」って言ってくれて。最初は「大変さを知らないのに...」と内心モヤモヤしてた。だけど、よく考えてみれば、野菜は毎日できるものだし、農家さんは本当は毎日出荷したいだろうし、僕らだって毎日食べていくものだし、恒常的にやっていくべきものじゃないかって思って。

この出来事を機に、農作物の背景にあるストーリーを深く理解したうえで、商品を販売して料理を提供する店を開こうと考え、その思いに賛同した那須朝市メンバー5人と共にChusをはじめることにしたのです。

こうして、2015年1月にMARCHEとTABLEをオープン。「食を中心に地域を問わずさまざまな人々が交流できるゲストハウスがあればどんなに素敵だろう」と、2016年7月にYADOをオープンしました。

エントランスをくぐると広がるMARCHE。全国各地の選りすぐりの商品がここまで揃っている店は珍しいのでは。

まるで洋画の世界に迷い込んだようなTABLEの空間。那須の美味しい食材を用いた料理を食べることができます。

ドミトリーと個室タイプがあるYADO。ドミトリーの各床は、ベッドの隣でトランクを開封できるほど広々としています(写真提供:Chus)

いい循環が、いい暮らしをつくる「バターのいとこ」

さらに宮本さんは、コンセプト「那須の大きな食卓」のもと、那須朝市からの仲間である森林ノ牧場の代表・山川 将弘さんと共同で、2018年3月に「バターのいとこ」という商品を開発しています。

「バターのいとこ」は、フランスの伝統菓子であるゴーフルのような焼き菓子です。格子模様のしっとりとした生地にスキムミルクを用いた生キャラメル状のものがサンドされています。パッケージに綴られているのは「GOOD LINKS, GOOD LIFE」の文字。この商品の誕生にはどういった背景があるのでしょうか。

1箱3枚入りで販売。まるでバターの包装のように、1枚ずつ金色の包みにくるまれています(写真提供:バターのいとこ)

宮本さん
六次産業化を目指していた山川が「バターをつくりたい」と話を切り出したのがきっかけです。実は牛乳の脂肪分は4%ほどしかなくて、1リットルの牛乳パックからできるバターの量はたった40gほど。これまで、残った約900ccのスキムミルク(無脂肪乳)は脱脂粉乳として安価に販売するしかなかったんですよね。この現状を地域の課題として捉えて、スキムミルクを使った那須の新銘菓をつくって売っちゃおう!というアイデアから「バターのいとこ」が生まれました。

バターをつくる酪農家、バターや新銘菓を味わう観光客、それらの認知拡大により活性化する那須地域。このように関わる人々を笑顔にする“三方よし”の循環をつくりだしているのが「バターのいとこ」なのです。

ジャージー牛を森で放牧して酪農する「森林ノ牧場」。みんなで見学させていただきました。中央で話している男性が山川さん。

1頭1頭の牛に名前が付けられています。どの牛もとても人懐っこく、日頃から大切に育てられていることがよくわかります。

「不便な通販」により、バランスのとれた関係性が築ける

「バターのいとこ」は瞬く間に評判を呼び、全国各地のマーケットイベントや百貨店の催事などから出店の誘いを受けるようになりました。購入希望者の列ができ、数時間で完売することもしばしば。これらの反響を受けて通販も開始。それは「不便な通販」を銘打つ、ちょっと変わったオンラインショップです。

オンラインショップでは、詰め合わせセットのみ販売しています(写真提供:バターのいとこ)

宮本さん
商品がいつ届くかわからない、それでも良かったら買ってください、と。飲食店に“ウェイター"と呼ばれる職業があるくらい、待つことは仕事の一部になっています。だけど、待つってことは、いつお客さんが来てもいいように、ある程度の食材を用意しておかなければならない不利な立場にある。だから逆に、生産の背景を理解して待ってもらうことが大事。つまり「待ってもらう」=「協力してもらう」ことで、食材料や労働時間を一定に保つことができるんです。

このスタイルを築いたことで「バターのいとこ」の工房では短時間労働が可能となり、障がいを持った人々をお互いに無理なく雇用できるようになったと宮本さんは話します。

宮本さん
商品の背景に働く人がいることを理解してもらえたおかげで、時世に左右されずに半年先までお客さんが待ってくれる状態をつくることができています。買ってくれる人や働いてくれる人、みんなにとって常に“三方よし”のバランスで「那須の大きな食卓」をつくっていきたいと思っています。

那須町にある工房。「バターのいとこ」は、Chusや森林ノ牧場でも購入することができます。

他にも、血の通った集落をつくろうと仲間たちと近距離に家を構え、“いいもの”を積極的に買える環境をつくろうと、Chusや関連施設の中で使える地域通貨をスタッフやその家族に付与し、生産者が手掛けた商品を積極的に購入できる仕組みをつくるなど、さまざまなアイデアを形にしています。

宮本さん
地方こそ暮らしは能動的につくれると思っていて。でも一人だと知識や技術が不足して、やりたいことはほとんど形にできない。だからコミュニティの広がりの中で仲間と一緒に形にしています。僕にとって今日のようなコミュニティが、まさに暮らしをつくる仲間、つまり“ローカル”なんです。

僕は「ハッピー産業」という言葉を信じていて。僕の好きなミュージシャンが、ハッピーとラッキーは響きは似ているけど全然違うって教えてくれました。ハッピーは自分で幸せをつくること。だから自分たちの手で関わる人たちを幸せにする産業をつくりたい。そういう思いでChusをやっています。

最後にみんなで記念撮影。お忙しいなかご参加くださり、本当にありがとうございました。

幸せが訪れるのを待つのではなく、幸せの循環を自らつくること。そのために、物理的な距離の近さだけでなく、心理的な距離の近さで共同しあえるコミュニティを育むこと。そういった仲間と出会えるように、本質的に“いい”と感じる人やモノを大切にし、感性のアンテナを常に鈍らせないこと。

幸せな暮らしのつくり方を追究する宮本さんの姿から、そのことを強く学ばせていただきました。

そして私たちのキャラバンは、今後もまだまだ続きます。
次はきっとあなたのまちへ。

※新型コロナウイルスに関して予断を許さない状況が続くため、現時点で当企画の再開のめどは立っておりません。事態が収束して誰もが安心して集まれる頃に、また笑顔でお会いできましたら幸いです。

(文/写真/動画: FootPrints 前田 有佳利


この記事を書いた人

MotionGallery編集部

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