日本各地のゲストハウスを毎月めぐり、地域で面白い活動を企む人たちが垣根を越えて出会える場をつくることで、新たな関係性やプロジェクトの芽を育もうとする企画「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-(以下、キャラバン)」。
19カ月目となる今回訪れたのは、千葉県佐倉市にあるゲストハウス「おもてなしラボ」。コワーキングスペースや、レンタルスペース、ミニライブラリー、小商いスペース、日替わりのキッチンカー店、さらには駄菓子屋まで...!? 驚くほど “複合し過ぎる”、まさにラボラトリー(実験室)のような施設です。
おもてなしラボを運営するかたわら、公共空間を活用したイベントや地元農家を応援するプロジェクトを立ち上げるなど、さまざまな地域活性の活動に励むオーナー鳥海 孝範(とりうみ・たかのり)さんに、活動の原点や今後の展開についてお話いただきました。そのプレゼンを中心にキャラバンをレポートします。
動画には、おもてなしラボの館内やイベント風景だけでなく、翌日のまち歩きの様子も収めています。
このキャラバンは、MotionGalleryによる「日本各地で誕生しようとしている熱いプロジェクトにエールを送りたい」という思いと、 FootPrintsによる「ゲストハウスを通じて、暮らしの選択肢が広がるきっかけを届けたい」という思いを組み合わせて実施しています。
キャラバン隊として毎月各地をめぐるのは、FootPrintsを運営する前田 有佳利(dari)と、コンセプト「あなたのまちに、新しい映画体験を」のマイクロシアターサービスpopcornに携わる梅本 智子(moko)。MotionGalleryの専属サポーターでもあるdari&mokoが、ゲストハウスの方々にご協力いただき「ローカルクリエイター交流会」を開催しています。
今回は、店舗経営者・親子ユニット・新規プロジェクトを計画中のチームなど表現のスタイルはさまざまですが、まちづくりへの関心を共通項に持つ方々が一堂に会する場となりました。さらに鳥海さんのご厚意で、地元で人気のイタリアンバル「Trattoria Noce」にケータリングをご担当いただくことができました。お腹いっぱい食べつつ飲みつつ、交流会は日付を超えるまで盛り上がりました。
参加者の皆さんと一緒に記念撮影。前列中央の赤い服の男性が鳥海さん、その左がdari、右がmokoです。
贅沢にもビュッフェスタイルのケータリングでした。目の前でスライスされた生ハムやチーズたっぷりのラザニアなど...!
佐倉市の情報発信サイトの運営から「地域コーディネーター」に展開
さて、ここから鳥海さんのプレゼンを振り返っていきましょう。
波紋を投じるようにさまざまな物事に影響を及ぼしていきたいとの思いを込めて「セブンリップルス」という個人事業主の屋号を掲げ、おもてなしラボをはじめとする複数の事業を展開する鳥海さん。3歳の頃に佐倉市に引っ越し、大学時代にはニュージーランドの大学・大学院に6年間留学していました。
鳥海さん
帰国後の6年間は、2時間ほど電車に揺られて通勤するような日々を送っていました。2006年から佐倉市の情報を発信する地域密着型のポータルサイト「さくラボ」をはじめました。今はwebのみの運営ですが、立ち上げ当初は、今で言うZINEのような小冊子もつくっていました。そういった経験から、行政と連携して佐倉市の発行物の作成まで担当させてもらうようになりました。
おもてなしラボのレンタルスペースをお借りして、イベントを開催しました。
2008年にフリーランスとして独立。現在では佐倉市だけでなく、近隣自治体の紙媒体やwebの制作に携わることもあるといいます。「自分の働き方に肩書きを付けるなら何だろうと改めて考え、最近は『地域コーディネーター』と名乗っています」と鳥海さん。
驚くほど “複合し過ぎる”、ラボラトリーな場所づくり
これまでの活動を通じて地域の人々との信頼関係が築かれたことから、閉館予定の資料館の活用方法に関する相談が舞い込み、「まちの記憶を伝える場所がこのまま借り手がなく取り壊されてしまうなら...」と自ら借りることを決意。資料館を改装し、2015年4月に現在のおもてなしラボをオープンしました。
鳥海さん
ロゴのイメージは、理科の実験とかで見かけるフラスコです。フラスコの中にある3つの要素が、主な事業であるゲストハウス・コワーキング・レンタルスペースを表現したもので、そこに新しい要素が今まさに注がれようとしているさまを描いています。その一滴が落ちることで化学反応が起き、新たな出会いが生まれる。そんな場所にという思いから、実験室という意味の「ラボ」を施設名に付けています。
おもてなしラボの訪問者は、地域の人々と旅人たち。旅人における海外ゲストの比率は50%ほどだそう。
ゲストハウスは定員10名で男女混合の相部屋タイプ。奥に共有リビングもあります。
おもてなしラボのガレージには日替わりで異なるキッチンカーが登場し、自家焙煎のコーヒーや「らーめんバーガー」という変わり種などが売られています。玄関口には地元の農家がつくった加工品や、地元の作家が手掛けた雑貨を販売する小商いスペースがあり、駄菓子の販売コーナーまで設けられています。
吹き抜けの半地下には、地域の人々が自由に出入りできるコミュニティスペースとミニライブラリー「まめとしょ」。さらに建物奥のレンタルスペースを使って、子供向けのプログラミング講座や英会話教室、佐倉市主催の介護予防体操が開かれるなど、小学生から高齢者まで幅広い層の集いの場となっています。
ガレージに置かれたキッチンカーで購入し、館内のコミュニティスペースで飲食することができます。
小商いスペース。地元の作家がボックスごとにスペースを借りて、作品を販売しています。
半地下のコミュニティスペースでトランプをする小学生たち。楽しそうな笑い声が聞こえてきます。
今後の展望は、宿の交流人口を増やし、面白い未来を形にすること
おもてなしラボのオープンから5年目を迎える今、今後の展望について「交流人口を増やすことを目的に、稼働率を上げたい」と鳥海さん。2019年4月からオリジナルコンテンツとして、条件が合致すれば宿泊料が無料になる「ダーツで県割」を開始。また、定額で複数の登録宿に宿泊できるサブスクリプション・システムに加盟するなど、さまざまな取り組みをすでにスタートさせています。
鳥海さん
「ダーツで県割」とは、僕が毎月初めに日本地図に向かってダーツの矢を投げて、矢が刺さった県から訪れた旅人は無料で宿泊できるという企画です。ただし「地元のお土産を一品持参し、18時までにチェックイン」という条件付き。お土産をネタにコミュニケーションを取ることが狙いなんです。お返しに僕から佐倉のお土産を渡します。家に帰った後、佐倉の話題で盛り上がってもらえたらいいなと思って。
そして、鳥海さん個人の活動においても、現在進行形で多数の“企み”があると言います。
鳥海さん
家守会社を設立したい。まちの空き地・空き家の活用提案や管理をするエリアマネジメントの会社を仲間たちとつくろうと考えています。はじめの一歩として、京成佐倉駅近くにある「カシムラ」という靴屋だった空き店舗を借りているのですが、そこで持ち寄りのイベントを開催したりしています。
また、佐倉市の許可を得て社会実験的に「カシムラ」の前の道路を占有して人工芝を敷き、キッチンカーに出店してもらい、商売と飲食ができる公共の憩いの場として活用するという企画も実施しました。最近こういった社会実験は、佐賀や和歌山など全国的に広がりつつありますが、アレンジを加えながら佐倉でも積極的に進めていけたらいいなと思っています。
社会実験の準備風景。店舗前の道路に芝生が敷かれ、夜には電飾が輝いていました(写真提供:おもてなしラボ)
さらに、2019年9月に発生した台風15号で流通難に苦しむ農家たちを救いたいと、持続的農業支援プロジェクト「チバベジ -野菜がつくる未来のカタチ-」を仲間と共に立ち上げました。食品として問題はなくとも流通には乗せられない、いわゆる“キズモノ”になった野菜や果物の新たな販路をつくり、台風15号の案件を皮切りに将来の災害やフードロスの問題さえも解決していこうという取り組みです。
MotionGalleryを用いてクラウドファンディングも実施。260万円を超える大きな反響を呼びました。
最後に、鳥海さんは「こういう未来が描けたらきっと面白いだろうなと思うことは、みんなで連携して実現していきたいですね」と言葉を添え、プレゼンを締めくくりました。
さまざまな化学反応が生まれる複合施設、おもてなしラボ。この場所を発信拠点に佐倉市全体を舞台とし、今後もますます面白い化学反応が巻き起こっていきそうです。
そして私たちのキャラバンは、今後もまだまだ続きます。
次はきっとあなたのまちへ。
(文/写真/動画: FootPrints 前田 有佳利)