MOTIONGALLERYは2020年12月、ミニシアターエイド基金を始めとしたコロナ禍から文化や社会を守る為のクラウドファンディングに数多く取り組んできた流れを組んだ『BASIC』という新しいプラットフォームを立ち上げました。
『BASIC』のコンセプトは「ベーシック・インカム」プラットフォーム。
クラウドファンディングだから出来たソーシャルアクションを実感した先に、それと並行して、もっと日常的なストック型の低体温な支援・参加の形こそ、コロナ禍およびアフターコロナのかたちとして求められるのではないか、そして「ベーシック・インカム」を標榜しているとおり、日常のちいさな「目標を定めない」活動自体にも社会に生きるみんなでサポートをしていくような形を模索して立ち上げました。
そんなふうに、巷ではやっているオンラインサロンと同じ様な、でも全然違うビジョンを抱いてスタートした『BASIC』。そんな『BASIC』のオープン当初から先陣を切ってコミュニティを立ち上げた、映画ファンのためのオンラインラウンジ『SHAKE』×『ミニシアタークラブ』×アートの鑑賞体験とアクセシビリティデザインから考えるコミュニティ型研究所『THEATRE for ALL LAB』の3コミュニティの方々と、MOTIONGALLERY大高を交えた4者にて対談を行いました!
なんで『BASIC』を始めたのか、実際どの様にコミュニティが育って来ていて、どんな苦労があるのかなど、これからクリエイティブチームやコレクティブ、施設運営者など、永続的なコミュニティを形作ろうと考えているかた、そしてそんな活動に参加してみたいかた必見です!
ちなみに、この鼎談は『SHAKE』の筒井龍平さんに司会を務めて頂きました。
まさに毎週の様に『SHAKE』で行われているトークイベントの司会を務め、『SHAKE』に参加していらっしゃる映画ファンとの交流を行っている筒井さんならではの取り回しのスムーズさにもぜひご注目ください!『SHAKE』の雰囲気がきっと伝わるはずです!
ついに始まったBASIC
昨年、継続支援型クラウドファンディング・プラットフォーム BASICを立ち上げたMotion Gallery代表の大高さんと、BASIC上に映画を中心とした文化芸術関連のコミュニティを運営している「SHAKE」「THEATRE for ALL LAB」「ミニシアタークラブ」の3事業者のメンバーをお招きして、活動の紹介や将来的なビジョンについて気軽にトークをしていければと思っています。みなさん、よろしくお願い致します。
筒井さん
大高さん、改めてにはなりますが…まずはなぜBASIC立ち上げられたのか?BASICでどんなことを実現しようとされているのか?というところをご説明いただけますか。
大高さん
BASICについては、タグラインからシステムまで、適宜色んな穴を塞ぎつつアジャイルで作っていて、やっと少し開発が落ち着いてきたところです。動画配信との連携もそろそろ完成します。そのうえで、更にバージョンアップしていこうと思っています。今までのものをベータ版、これからが正規版という位置付けでやっていけたらな思っています。
筒井さん
そうなんですね。どうしてバージョンアップを計画しているのですか?
大高さん
タグラインをなぜ変えようとしているかというと、「創作活動のベーシックインカム」というコンセプトをもっと強く打ち出すためです。BASICを始めた経緯と直接繋がる話でもありますが、これまでプロジェクト型のクラウドファンディング(Motion Gallery)をやっている中で、定期的に支援をしてもらうような形を作ってくれないかという意見は、起案者の方からちらほら頂いていまして…。
それでもやらなかった理由としては、やはり、オンラインサロンみたいなものが賑わってきたタイミングで、オンラインサロンをやっている会社という立ち位置になりたくない、という個人的な思いがあり敬遠していました。
ーMotion Galleryがオンラインサロンをやらなかった理由
筒井さん
オンラインサロンをやらなかった理由についてさらに突っ込んで聞いてもいいですか?
司会:筒井龍平さん(SHAKE)
大高さん
僕の中で考えているトレンドワードとして、「ビジネスの半グレ化」みたいな流れもあるのかもしれないなと思っています。
これまで、クリエイターとしての矜持でやらなかったようなことをやっても、「お金を出す人がいるからいいじゃん」というロジックで、そういう商法が結構認められてきていることを問題だと僕は思っていて…。まぁ、サステナブルじゃない。「(そうした商法のおかげで)クリエイティブな映画とか演劇に触れる人が居るんだから良いじゃん」っていう論理だと思うんですが、そういう理屈で入ってきた人は、絶対に定着しない。本質的に文化の裾野を広げるということには全く繋がらないと思っています。
オンラインサロンというのは、ひとりの「カリスマ」みたいな人が、「信者」みたいな囲いを作って、「君も儲かるよ」「君もクリエイターになれるよ」と説くことで、お金をどんどん吸い上げていくっていう「権力の非対称性」を内在させた仕組みにどうしてもなりがちだから、あまりやりたくないと思っていました。それは短期的に会社としては儲かるんだけど、長期的には文化というものを破壊しかねないと思ってしまい。
ーBASICの契機①:ミニシアターエイドは繰り返せない
大高さん
去年「ミニシアターエイド基金」に取り組んでいて、3億円という成果を収めつつも、「もし来年また緊急事態宣言があったら、もう一回やるべきかどうか?」ということをメンバーで話していたんです。大体が「やるべきではない」という考え方を持っていました。
というのも、当時あいちトリエンナーレ2019を筆頭に「文化だけ助かればいいのか?」みたいな話があったなかで、悪目立ちしてしまうことによって、逆にミニシアターへの攻撃が始まりかねないということを前提に、ミニシアターエイドを動かしていました。(こうした状況のなかで)いかに正しいコンテクストの上に、適切な形で、適切な人へ伝えるかということを意識したり、集めたお金を誰に対して、どこまでの責任範囲で支援するのかということは、かなり綿密に提示していた。ただ、それを毎年繰り返すことで、適切に作った文脈も自分たちで壊しかねないし、お祭りみたいに何度もやるっていうこと自体が、反感を生みかねないと思い、(ミニシアターエイド基金は)一回きりにして、また危機的な状況が来たときに備えて、「フロー型」のシーンではなくて、「ストック型」のシーンを作っていかなければならないと思っていました。
ミニシアターだけでなく、続いて配給会社はどうなるのか?映画制作者はどうなるのか?という状況が生まれてくるだろうということも踏まえて、悪目立ちせずにサステナブルな活動を造っていくという意味では、ベーシックインカムみたいな仕組みを造っていくのがいいのではないか?という話が、(エイド)メンバー内でも出ていましたね。
ーBASICの契機②:日本映画業界の企画開発予算の少なさ
大高さん
もうひとつ僕が個人的に思っていたこととして、日本映画のデベロッピング(企画開発)費用の問題があります。僕の中での位置付けとして、(プロジェクト型の)クラウドファンディングというものは「文化助成金を民間で作る」ということだと思っていて、映画や演劇でも、基本的に制作費を集めるための手段として使われてきた。その形がある程度定着してきた中で、次の問題があるとすれば、(日本の)デベロッピング費用の問題だと思っています。
ハリウッドであればデベロッピングの費用が潤沢にあり、それによって脚本が凄く練りこまれていて、いい作品ができている一方で、日本ではデベロッピングをしっかりやる予算がないので、たとえば、会社に勤めている人からすると、(映画内の)サラリーマンの会話で「ん!?」っていうシーンが結構多いじゃないですか?実際の会社でそんな会話はないぞ!みたいなことが多すぎる。
海外だと、例えば『マイ・インターン』とか、スタートアップ界隈の文化をリアルタイムでちゃんと表現している。それは、脚本開発の段階でリサーチをしっかり予算をかけてやっているからな訳で、日本でそういう表現が生まれない理由は、デベロッピング費用が手厚くないからだと思います。
助成金を集めるのも難しいし、クラウドファンディングでいつ作るかわからないもののための費用を集めることは(ファンディングの)定義的に難しい。
ーBASIC:ベーシックインカム的な支援による文化活動の基盤造り
大高さん
そんな中で、民間のベーシックインカムというのは、アウトプット自体が目的ではなく、(極論すると)クリエイターがアルバイトをしなければならない時間を減らすために、お金をみんなで支援することで、その人が企画開発や鍛錬のために使える時間を作り、クリエイティブの基盤を支えていくモデルです。それによって立ち上がる、より密度や練度の高い企画を実現する時に、イニシャルコストをクラウドファンディングという「プロジェクト型」のモデルで集めるという流れができると、より豊かな文化活動が生まれるであろうと思いました。
オンラインサロンのように、ひとりのカリスマが知恵の集積や金儲けの手段として使う場ではなく、チームや場所、施設をベーシックインカム的に月々支援することによって、文化的な活動の基盤をみんなで作っていくことができると良いと思い、始めたのがBASIC。「1:n」というより「n:n」。チームや場所と、応援する人とがフラットに並ぶ形にできたらと思っています。
また、BASICはミニシアターエイドの次のフェーズという位置付けもあるので、ミニシアターエイドの「サンクス・シアター」で導入していた、映像をDRM付きでオンライン配信できる仕組みを連携させることで、月額で参加しているメンバーに、劇場公開中の映画も含めてシームレスに見てもらえるようにしています。これまで映画館を中心にオフラインで育まれていたエコシステム全体を、オンラインにも移行することができる。定期的に活動を続けることで、支持母体が広がるというような、よりサステナブルで、ストック型の形を求めてBASICを立ち上げました。
筒井さん
相変わらず、大高さんの話は理路整然としてるなぁ…ありがとうございました。
ー3事業者による活動紹介
筒井さん
今回のトークに参加する「SHAKE」「THEATRE for ALL LAB」「ミニシアタークラブ」の3事業者が共通して利用しているプラットフォーム・BASICのご説明を大高さんにして頂いたところで…。
改めて3事業者の自己紹介というか、BASIC上で展開しているそれぞれの活動について、ご説明をお願いします。
我々から行きますかね、汐田さん?
汐田海平さん(SHAKE)
汐田さん
汐田と申します。Shake, Tokyoという会社をやっております。
僕自身は映画・映像のプロデューサーとして、最近ですと去年公開された『佐々木インマイマイン』という映画を製作しております。あとは、「uni」というSNSを中心としたコミュニティサービスみたいなこともやっています。
BASIC上で運営している「SHAKE」というコミュニティは、うちの会社と松竹さんの共同事業としてやっているコミュニティです。立て付けとして「オンラインラウンジ」という言い方をしているんですけど、映画の観られ方がオンライン上に移行していったり、劇場で集まりづらくなってしまった時に、(映画館のラウンジで行われていたような)作品基点のコミュニケーションが失われてしまうんじゃないか?と思いました。そうしたコミュニケーションをオンライン上でも実現して、それによって劇場でもより楽しく映画が見られるようにしたい、という思いから「映画時間をもっとリッチに」というコンセプトで活動しています。色々とやりたいことはあるんですけど、まずはコミュニティという形でしっかりと土台を作って、今後コミュニケーションを深くしていったり、そこから作品だったり、色んなものが生まれていくといいな、というつもりでやっております。
今日はよろしくお願いします。
筒井さん
ありがとうございます。次は、THEATRE for ALL LABさんお願いします。
山川陸さん(Theatre for All LAB)
山川さん
THEATRE for ALL LABの山川です。
「THEATRE for ALL LAB」は「THEATRE for ALL」というアクセシビリティに特化したオンライン劇場事業でリサーチやコミュニティデザインなど、福祉や芸術の現場とをつなぐ活動をしている部門です。配信している映像は、映画・演劇・ダンス・ドキュメンタリー・現代アートなど、ジャンル不問で文化芸術全般を対象にしていて、全ての作品になにかしらのバリアフリー対応が施されているというのが特徴です。音声ガイドがあったり、手話通訳があったり、多言語字幕があったり、どの作品も必ずいずれかの情報保障を含んでいます。新作で挑戦している場合もありますし、例えば『絵の中のぼくの村』のような過去の名作映画に、新しく音声ガイドをつける試みもしています。
立ち上げの経緯としては、みなさんと近いところもあるんですけど、コロナ禍で劇場での公演や上映の機会が減ってしまったり、足を運ぶのが難しくなったのをきっかけに、オンラインで様々なジャンルの作品が鑑賞できる機会を作ろうとしたのが始まりです。
そのとき考えることになったのが、コロナ以前からそもそも劇場に距離や子育てなどの時間的な成約、障害や病気などの理由で鑑賞機会がなかった人が沢山いるということです。オンライン劇場をつくることはそういった人達にとっても、文化とつながる機会になるんじゃないか、という問いにアクセシビリティという福祉の観点を組み合わせた事業が、THEATRE for ALLです。運営しているのはプリコグという、パフォーミング・アーツをはじめとする表現を主軸に活動する制作会社で、たとえば「チェルフィッチュ」のようなコンテンポラリーな劇団を立ち上げ期からプロデュースしていたり、これまで福祉事業に関わっていた組織ではありません。事務局はコロナ以前プリコグが運営事務局として関わっていた「True Colors Festival– 超ダイバーシティ芸術祭 –をきっかけに、いろいろな仕事や作品制作に取り組む人がプロジェクトメンバーとして集結した組織になっています。また、Palabraさん をはじめ、音声ガイドや字幕制作に長年とりくまれている会社にパートナーになっていただいたり、福祉と芸術を越境してきた人とも一緒になってやっているんです。
福祉と芸術を繋ぐところに特化したプラットフォームというのが今まであまりなかったので、すでに活動されている福祉施設や団体にご挨拶に行き、「こういうことをやっていて、一緒に何かやりませんか?」とか、「意見を聞かせてください」みたいな地道なやりとりから始めることが多いです。具体的なプロジェクトにつなげていくためにも、受け皿となるコミュニティがあるのが重要かなと思っています。
また、周りのアーティストやデザイナーと話していても、本当の意味で「みんな」に届けるっていうことを考えたかったけど、(実践的に)考える機会がなかったと話している人が結構多いので、そういう人達をまず仲間に取り込んで、どうすれば届けられるかをみんなで考える場(コミュニティ)が必要だね、と議論になりました。そこでプロジェクト型のクラウドファンディングではなく、BASICを導入することになりました。
筒井さん
ありがとうございます。すごく面白かったというか…、お伺いしていて、だからまさに「LAB」なんだなっていう感じを受けました。さっきの大高さんの話に近づけると、どんなアウトプットがいつ出てくるかは定かじゃないけれども、広い意味での創作活動だったり、それに向けてのディスカッションを行いながら、その活動を支えるためのコミュニティを作られているのだなと納得いたしました。
それでは、最後に「ミニシアタークラブ」さん、お願い致します。
朝山英明さん(ミニシアタークラブ)
朝山さん
ミニシアタークラブの朝山です、よろしくお願いします。
ミニシアタークラブはですね、その名の通り、ミニシアターを盛り上げるための「部活動」的なニュアンスで「クラブ」という名前がついています。
もともと皆さんと同じく、コロナをきっかけに劇場が映画を上映できなくなったことを背景に、Motion Galleryで「Save the Cinema」や「ミニシアターエイド基金」などの活動やっていて、ユーロスペースの北條支配人が「ミニシアターってもうダメだと思っていたけど、こんなに多くの人が応援してくれるんだ」ということを知ったことで、(六十歳を手前にして)ミニシアターに最後の貢献をしたいという強い思いがあったようでした。
SAVE the CINEMAの活動中に、ユーロスペースに何度かお伺いするなかで僕とウフルの青木さんと、「何かミニシアター側から自分たちを発信する場というものを、きちんと作っていった方が良いのではないか?」というような話をしていて、「じゃあ、その形としては何があるのだろう?」というところで、オンラインコミュニティというものがあった。ただ、大高さんと同じく「オンラインサロンみたいなことはやりたくない」と思っていたので、我々や北條支配人が旗振りとなって、みんなでミニシアター文化を創っていくために集まれる場所を作ることにチャレンジしていきたい、というところから始まっています。
一つの野望としては、もう一度1990年代や2000年代にあった(北條支配人の言葉で言えば)『ミニシアター・ルネッサンス』のような、ミニシアターブームをもう一度作る火種になる活動にしたいと思っています。ですので活動内容も基本的には日本全国でミニシアターに対してしっかり向き合って活動している方をフィーチャーしつつも、様々な活動内容の方をキャスティングしたり、その時の流行りの映画や新しい映画館などとバランスをとりながら、少しでもミニシアターの場というのが広がればいいなという方針でやっています。今後のビジョンの一つとしては、単純に取り上げていくのではなく、みんながミニシアターに関わっていけるようなコミュニティづくりというのを目指していて、例えば、みんなで一緒に映画の買い付けや配給をしたりして、より体験的なこともできる緩やかな組織が造れればいいと思っています。
筒井さん
BASICが内包している「コミュニティ」という形を、活動の形態によって、三者三様の言葉に言い換えていることが面白いですね。
ミニシアタークラブさんはまさに部活動みたいなノリで「クラブ」、Theatre for ALL LABさんはどっちかというと研究開発みたいなイメージがまさに「ラボ」という感じで、かたや我々SHAKEは「オンラインサロンに対する嫌悪感」みたいなものがあって、差別化したい思いから「ラウンジ」という言い方をしてみたり…。
トピック1. 儲からないのになんで?:お金の話
筒井さん
「継続性」や「サステナビリティ」みたいなことがキーワードとして上がってきている一方で、ここからは少々生々しい経済的側面のお話もできればと思っています。
我々SHAKEがやっていることはある種の公共性を帯びているというか,,,大命題として「映画のお客さんや映画と接点のある人を増やしたい」というシンプルな思いがありますが、松竹さんと共同事業としてやっている以上「収益を上げていかなければ継続ができない」という条件も同時にある。
個人的に本当にお伺いしたかったことは、皆さんその辺どうなされているのか?ということです。闇雲にスケールを追うのではなく継続性という支点に立って、決して儲かるものではないコミュニティづくりの活動を行っているなかで、大まかな収支目標や運営体制、そしてお金以外のメリットついてお伺いさせてください。
いきなり朝山さんに聞いちゃっていいですか?
・ミニシアタークラブ:収益ではなく、まずは火種に
朝山さん
はい、お金の面は凄く難しいと思っています。
オンラインコミュニティを立ち上げる時に、ミニシアタークラブは価格設定を月1,000円にしていますが、立ち上げ時点でどのくらいのメンバー数を目標にするのかという点に関しては、大高さん含めて色々な方にご相談させて頂いていました。例えばいきなり1,000人いくのか?と言うとそれは行かない。そうすると、「運営資金」がどうやっても回らないなかで、会員費により収益を上げることを目標にするべきではないと思いました。あくまでもまずは、諸経費、我々の人件費を除いた経費だけでも払えるような形でやっていこうというところをベースの目標にしています。
そのうえで、大高さんとも話していたのは、いきなり数ヶ月でミニシアタークラブの活動に火がついて、どんどん人が集まってくるということは難しいだろうと。まずは一年目くらいに、例えば仮に(メンバーが)100人くらいに到達すれば、ミニシアタークラブの活動としては成立しているんじゃないか、と話しながら始めました。だから、僕と(ウフル)青木さん、もちろん北條支配人も基本的には活動に関してギャランティは発生していません。基本的には僕ら3人の中の「どうやったらミニシアターを盛り上げられるか?」という活動に対しての想いだけでやっているという状況です。
一方で(資金的に)いきなりゼロベースから立ち上げるのは難しかったので、当時ちょうど始まった文化庁の(助成制度である)継続支援事業をベースにしながら、まずはウェブサイトの開発やオープニングイベントの開催など初期費用をまかなっています。それ以降は、出演者にわずかながら謝礼を払っているんですけど、(ランニングコストとして)そこがひとまず回れば、とりあえずは継続できると考えています。
運営メンバー3人にはそれぞれの目論見があるんですけど、一つはミニシアタークラブの活動を通して、我々がミニシアターに積極的な支援をしているということを世間に知ってもらえる、ということが大事だと思っています。こうした関係性に付随して、例えば、(青木さんが所属する) ウフルさんはミニシアターをお手伝いするようなお仕事も増えていくし、ユーロスペースさんであれば、ミニシアターをやりたい人やシーンでブレイクしたい若い人たちが、ユーロスペースであったりミニシアタークラブで活動する映画館により集まるようになる。こうした流れで副次的な収益が今後少しづつ積み上がっていけばいい、という視点をひとつの軸としてミニシアタークラブをやっています。
筒井さん
なるほど。それ自体で収益を追い求める感じではないけど、それが火種というか、きっかけになって、(副次的な利益が)派生してくるということですね。濃密なお話をありがとうございました。
・Theatre for All LAB:経済的資本ではなく文化的・社会的資本を貯めていく
筒井さん
じゃあ、Theatre for All LABさんの…すごいフワッとしたご質問で恐縮なんですけど…
小林あずささん(Theatre for All )
小林さん
THEATRE for All LABの小林です。
THEATRE for All の特徴ですが、LABを含めた3本柱の事業になっているところです。なにかしらのバリアフリーやアクセシビリティ対応が施された作品が観られる動画配信、作品の解説や子供向け・大人向け・障害当事者向けのワークショップを通して学びの機会を提供するラーニング・プログラム、そして我らLABを展開するコミュニティチームの3つの軸をもっています。そんなにお金もかけられませんが、障害当事者にとってだけでなく、このサービスに触れる多くの方に気づきを生み出す事業でありたい、収益だけを追っているわけではありません。
コミュニティチームがLABの活動でつちかった知見、例えば、作品やアクセシビリティーについて言語化する技術や、その議論を醸成するファシリテーション、場づくりの構築などはそのこと自体が利益に直結するものではないかもしれませんが、事業継続の上で重要な基板にもなり、THEATRE for ALLの価値を作っていく中では非常に重要なことです。そして、LAB活動でいただく様々なフィードバックはラーニングプログラムや作品のアクセシビリティに還元して反映しています。
直接に経済資本を作り出す営みではないのですが、文化資本や社会関係資本を育んで貯めていると思っています。
筒井さん
それすごいいいですね。「経済的資本ではなく、文化資本や社会関係資本を貯めていく」というのは、凄くいいフレーズですね!
小林さん
すごいうまくいってそうに話しましたけどまだヨチヨチ歩きの状態ですが…(笑)
筒井さん
それは、我々も含めて皆さん多かれ少なかれヨチヨチ歩き状態だと思います…
山川さん
その点、(コミュニティの運営が)リサーチを兼ねている側面があります。
例えば今、SHAKEさんだったらDiscord使っていて、ミニシアタークラブさんはFacebookを使っていたり、THEATRE for All LABはSlack使っているんですけど…、Slackには過去に協業したアーティストや制作団体の方も参加しているし、福祉施設の人もいるし、BASICで会員になった人もいるし、また別で今後協業するかもしれない施設の人とかも参加いただいていて、BASIC会員ではない人もいる。そういう意味では、逆に、BASIC外の人たちと意見交換が出来ることをコミュニティの強みにしている。BASICをやっていることで、どういう人が、お金を払ってでも、思考しようとするモチベーションを持っているのか?というリサーチも視野に入れてやっているというところがあります。実際、会員のなかには「こんな演劇研究している人もいるんだ」とか、「文化の仕事を生業にしながら、家族に福祉施設に通っている人がいて、自分の仕事と家族のことがどうやったら繋がるんだろう?」と考えている人とか…、色んな方がいます。まだ分母が少ないので、個別解ばっかりですけど…、今後THEATRE for All全体として協業を視野に入れて、次のプロジェクトに繋がりうる「人材探し」を兼ねているところがありますね。
筒井さん
ペルソナの輪郭を浮かび上がらせることによって、THEATRE for Allさんとして何を実現されようとしているんですか?
山川さん
THEATRE for Allの視野は広いですけど、バリアフリー対応とか、そういう文化事業とかって、例えば、視覚障害者だけに特化していたり、聴覚障害者だけに特化していたりします。というのも、すべての種類の障害がそれぞれに異なっているため、どれかに絞り込んで専門的な団体や施設ができていくケースも多い。。その点、THEATRE for Allは(個々別の障害ではなく、なにかしらの「バリア」を持つすべての方をターゲットとしており、)いかに多くの専門家や障害当事者の方を巻き込めるかということが重要になっています。だからこそ、絞り込むための「ペルソナ探し」ではなく、より多くを包摂するための「ペルソナ探り」をしています。
なので、事業としては方針が絞られていない、ともいえますが、そういう考えがあるが故に、いまの活動形態になっている感じです。
筒井さん
なるほど。ある種シンクタンクっぽいというか、BASICの上で活動する団体としては、極めて理想的というか、(BASICとの)親和性が高いように思いました。
じゃあ、SHAKEのお話も…赤裸々なお話をお願いします。
・SHAKE:コミュニティを育てることで、利益が還ってくる
汐田さん
はい。皆さんのお話がとても良くて、めちゃくちゃ勉強になるなぁ、と思いながら聞かせていただいていました…。
質問は「なぜ赤字でもやるのか?」ということだったと思うんですけど、SHAKEの場合も同じく運営費やコンテンツの制作費にコストはかかっていて、「赤字でもいい」とは特に思っていません。この点について考え方が二つありまして…。
ひとつは現時点で赤字になったとしても、SHAKEにはコミュニケーションが発生しているので、それを今後しっかりと捕まえていけば、実質的には赤字ではない、と僕は思っています。例えば、映画を見て「こういう人はこういう感想を言うんだ」とか動画コンテンツに対して「こんなリアクションがあるんだ」みたいなことは蓄積していきます。山川さんが仰ったことに少し近いところもあるんですけど、僕自身が映画プロデューサーであり、一緒にやっている松竹さんも映画の会社なので、映画作品を起点にしたコミュニケーションが発生していること自体にすごく価値があると思っている。それは、ゆくゆくお金に変えることができると思っています。
もうひとつ、SHAKEのオンライントークでコルクの佐渡島傭平さんとお話をした時に仰っていたことですごく共感したことがあります。「最近の評論や批評に力がない」ことについて話していたのですが、佐渡島さんは「批評とか評論とかを作るには製作者側が投資をしなければいけない」ということを仰っていて、それって多分、市場を作るということ、観客を育てるということだと思いました。そういう意味で、(批評へ)投資をしていく価値もあるのかなと思っています。ただ、批評家が批評を書いてくれるのを待つのではなく、(お金を出して)コンテンツとしてテキストを書いてもらい、それに対する読者のリアクションをも含めて蓄積していくことで、ゆくゆくは製作者に還ってくると思っています。
筒井さん
ありがとうございます。三者三様で面白いですね。
ーーーーーーーーーー 後編に続きます! ーーーーーーーーーー