日本各地のゲストハウスをめぐり、地域のクリエイターたちが垣根を越えて出会える場を開くことで、新たなプロジェクトの芽を育もうとする企画「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-(以下キャラバン)」。第5回は、神奈川県小田原市の「 Good Trip Hostel & Bar(以下Good Trip)」にて開催しました。
JR小田原駅から人気の温泉観光地である箱根湯本や熱海まで、電車で約20分少々。その便利さゆえ、入込観光客数のうち約95%が日帰り観光となっている小田原。しかし、江戸時代の最盛期には約100軒の旅籠屋が建ち並ぶほど、東海道五十三次の中でも屈指の宿場町だったのです。
その歴史的背景を汲むように、あえて駅から徒歩約15分、かつての小田原宿の中心地であり旧歓楽街である宮小路エリアに拠点を構えているのが、Good Trip。周辺店舗との繋がりを大切にし、肩肘を張らないコミュニケーションを通じて、街の居心地の良さを体感的に教えてくれるゲストハウスです。
今回のキャラバンのレポートをともに、そんなGood Tripの誕生経緯と、携わる人々の思いをご紹介します。
キャラバンの記録を動画でまとめました。記事とあわせてどうぞ
第5回、まちづくりに関わる人々や、個性的なライフワークの人々が集う交流会に
このキャラバンは、MotionGalleryによる「日本各地で誕生しようとしている熱いプロジェクトにエールを送りたい」という思いと、 FootPrintsによる「ゲストハウスのある旅を通じて、暮らしの選択肢が広がるきっかけを届けたい」という思いを組み合わせて実現しています。
当日のホスト役は、FootPrintsを運営する前田 有佳利(dari)と、"あなたのまちに、新しい映画体験を"をテーマに掲げるマイクロシアターサービス popcornの立ち上げメンバー梅本 智子(moko)。MotionGalleryの専属サポーターでもあるdari&mokoユニットが、各地のゲストハウス運営者のご協力を得ながら、ローカルクリエイターたちに会いに行っています。
第5回の参加者は、小田原を身近に感じてもらおうとバーチャル街並み体験を提供するVR建築士や、ドッグランとカフェを営むかたわら地域創生アドバイザーとしても活躍する方など、まちづくりに関心の高い方が多数。また、好きが高じて博物館や科学館へ恐竜骨格や頭骨標本を提供する企業に務める"ボーンコレクター”の若き女性など、珍しいライフワークの方にもお会いできました。
ゲストハウスの共有スペースで、参加者みんなで撮影。中央の女性2名が、dari(左)とmoko(右)です
交流会後の二次会は、Good Tripイチオシの名物女将が営む「酒茶や なおえ」で開催いただきました
21世紀最長の皆既日食。初めての一人旅とゲストハウス体験
参加者同士がアイデアや刺激をフラットに共有できる場づくりをと、いつもキャラバン冒頭では、dari&mokoとゲストハウス運営者から、それぞれの活動の原点をプレゼンしています。今回は、“リッキー”の愛称で親しまれるGood Tripのオーナー中村 力弥(なかむら りきや)さんと、公私ともにベストパートナーといえるご友人の「 株式会社旧三福不動産」共同代表の山居 是文(やまい よしふみ)さんから、お話をいただきました。
イベント会場となったGood Tripのリビングでプレゼンする、中村さん(左)と山居さん(右)
東京のカメラスタジオに3年間勤務し独立後、フリーランスでカメラマンをしていた中村さん。初めて一人旅をしたのは、2009年の夏、24歳の時でした。21世紀最長となる皆既日食の観測をスタートに旅に出ようと、バイクにテントを積んで旅支度をし、観測地の1つとされる奄美大島へ向かいました。その時、初めてゲストハウスに泊まります。
中村さん
一人旅って、孤独やストイックなものだと思っていたんです。そしたら予想外に、ゲストハウスを運営するおじちゃんやおばちゃんが優しくて、他の宿泊者ともあっという間に仲良くなることができました。そこで出来た友達とは今も繋がっていて。ゲストハウスっていいな、旅っていいな、と思うようになっていきました。
それ以来、カメラマンとして働いてお金を貯めては、まとまった休みを取り、バイクで日本中を一人旅。次第に、東南アジアやオーストラリアなどの海外まで、ゲストハウスを利用しながら旅をするようになりました。
「一番好きな色は緑!」と話す、オーナーの中村 力弥さん。1984年、小田原市国府津生まれです
異業種からの転職。その道のプロたちのもとで、経験を積む
カメラマンとして活動を続ける中、自身のライフスタイルとして、“旅を絡めたゲストハウスがそばにある暮らしを”思い描くようになってきます。2014年、旅先で出会った人の勧めを頼りに訪れた、長野県長野市のゲストハウス「 1166バックパッカーズ」でインターンの募集を見つけ、思い切って半年間働くことに。その後も縁は続き、北海道札幌市のゲストハウス「TIME PEACE APARTMENT」では、約1年半マネージャーを務めることになりました。
そして2016年、ゲストハウスを開業するなら地元でしようと、小田原へUターン。ゲストハウス内に周辺住民も立ち寄れるバーを併設したいと、小田原のバーテンダー協会の理事が経営に携わる老舗のバー「Live Lounge SPATS」で、半年間ほどバーテンダーとして修行。満を持して、2017年3月、大好きな緑色をテーマカラーとしたGood Tripをオープンしたのです。
1階には地域の人々も立ち寄れるバースペースを併設。アルコールは1杯500円から。種類も豊富です
幼い頃から父に教わった大工仕事と、仲間の協力から、ほぼDIYでリノベーション。約4カ月で完成しました
中村さんと山居さんとの出会い。2年後の再会
一方、旧三福不動産の山居さんは、2012年から地元・小田原を拠点に、中華料理屋だった空き店舗をリノベーションしたコワーキングスペース「 旧三福」を運営。2015年からは不動産業を拡張し、小田原に活気を取り戻すことを目的とした官民一体のプロジェクト「第3新創業市」の委員長も務めながら、小田原における創業支援に尽力しています。
中村さんと山居さんが出会ったのは、中村さんが長野から帰省し、札幌のゲストハウスに向かう直前、山居さんが不動産業の開業準備を始めていた頃のことでした。
山居さんは1978年生まれ。2016年「旧三福」はシェアオフィスやイベントスペースなどの機能も拡張しました
山居さん
リッキー(中村さん)が、旧三福にふらっとやって来て「いずれ小田原でゲストハウスを開きたくて、これから北海道へ修行に行くんです」と話してくれました。当時、小田原にゲストハウスはなく、僕もあったらいいなと思いながらも、コワーキングの運営と不動産業があるし、誰かできる人がいたらいいなと思っていたんです。
とはいえ、連絡先を交換していなかったし、いつ帰ってくるかもわからなかったから、あまり期待しないでいました。そしたら、2年ぐらいして、本当にまたうちに来てくれたんです。「ゲストハウスをやりたいので、物件を探したいです」って。
小田原宿の中心地かつ旧歓楽街。地域とゲストハウスのつながり
中村さんは当初から、宮小路エリアでの開業を希望していました。甲州街道と東海道が交差するかつての小田原宿の中心地に位置し、今では個性的な飲食店が夜の街にポツポツとネオンを灯す旧歓楽街。偶然にも、そこは山居さんが生まれ育った街のそばでもあったのです。
宿から少し歩いて旧歓楽街へ。笑い声や歌声がほんのり店内から漏れ聞こえる、そんなネオン街です
あえて主要駅から徒歩約15分。歴史の厚みがある場所にゲストハウスを構えることで、訪れる人々に小田原のことをもっと知ってもらいたい。小田原に来て良かったと思ってくれる人を、1人でも多く増やしたい。中村さんは、場所に込めた思いを話します。
中村さん
宿の1階にバーを構えているのも、旅人と地元の人との交差点をつくりたいと思ったからなんです。実際に近所の人が飲みに来てくれて、どっから来たの?ってゲストさんと話をしたり、ここに行くといいよ!って翌日の旅のプランまで一緒に考えたり。
バーで食事を出さないのも、近所に個性的な居酒屋さんがいっぱいあるから、ぜひそこでお金を使ってもらいたくて。宿に帰って、まだ飲み足らなかったら、地元の人と話しながら宿のバーで飲んでくれたらいい。地域全体がより良くなることが、うちの宿の魅力にも繋がるから、一緒にがんばっていきたいなって思っています。
近隣の老舗居酒屋「大学酒蔵」。どの店主もGood Tripの名前を聞くと、ふっと表情が緩んで話が弾みます
キャラバン翌日は、宿泊した参加者の方々と早川漁港へ。小田原は、想像以上に海と猫の街でした
小田原城の天守閣から見える眺望。フラットな街並みと海との近さが体感できます
Good Tripのそばにある松原神社には、海の神様が祀られています。毎年5月3〜5日は「松原神社例大祭」が開催され、船に見立てた30基以上の神輿を街の男衆が総出で担ぎ上げます。街全体が活気に溢れるその様は、小田原の春の風物詩です。
山居さん
松原神社の周りは、もともと繁華街だったんです。今は空き家が増えてしまったけど、リッキーがゲストハウスをやってくれたおかげで、物件を案内する時も「面白そうなエリアですね」と言ってもらえるようになりました。きっと数年後、Good Tripをきっかけに新しいお店が増えて、街が変わるんだろうなって予感がしています。
植物のように、目標に対して、途絶えることなく力強く経験を積むこと。その姿が、地域の賑わいの芽を育てるきっかけとなっていく...。中村さんや山居さんをはじめとする小田原のローカルクリエイターたちとの出会いを介して、そんなことを学ばせていただきました。
そして私たちのキャラバンは、今後もまだまだ続きます。
次はきっとあなたの街へ。
(文/写真/動画: FootPrints 前田 有佳利)